昭電とリスク対策.comは9月12日、大規模災害が頻発・激甚化するなかで重要性を増す複合的な危機管理・防災対策のあり方や、有効な製品・ソリューションの最新動向を紹介するBCP総合セミナー「サステナブル&レジリエントなBCP対策の実現へ 〜天変地異時代における防災DXやAIを活用した危機管理の取り組み〜」を開催した。今後求められる企業防災のあり方などに関する有識者の基調講演とともに、昭電が具体的なソリューションを提案した。
“プログラム開始に先立って挨拶した昭電の加藤雅也氏(常務執行役員・事業推進部長)は、年初に発生した能登半島地震の被災者への哀悼の意と早期の復興への思いを述べた上で、災害が非常に先鋭化・大型化する昨今において「サステナブルでレジリエントなBCP対策」を講じることが不可欠であり、それには、人員、コスト、時間の十分な割り当てに加えて、「省人化の対応、DXの利用拡大が不可欠な課題」と指摘した。また、この日のセミナーでは、防災システム研究所の山村武彦所長による基調講演とともに、昭電による複合的な防災対策とスマート保安・保全のソリューションの技術的アップデートを共有することで「我が国の産業インフラにおける防災、スマート保安の“サステナビリティ”と“レジリエンス”の強化につながれば」と語った。
基調講演に登壇した防災システム研究所・所長の山村武彦氏は、1964年の新潟地震に遭遇して以来、世界の災害現場を周り、調査を重ねてきた経験から「災害は時と所を選ばない」と強調。企業のBCP(事業継続計画)については「災害が発生してから出来ることはせいぜい2割。事前対策が8割という認識を持って対応すべき」、「事前対策にもコストをかけることが、これからの企業としてのマナーだ」との考えを示した。
企業による事前対策として、災害協定や受援計画を整備・再点検することや、被害を受けたときの復旧計画を明確に作っておくことが必要とし、今年1月1日の能登半島地震で被災した企業で、十分な生活物資の備蓄や水、電源の確保といった事前対策を講じていた例を紹介した。「最悪に備えた受援計画」を整備していた結果として「応援に来てくれた関連企業の人たちを迅速に受け入れ、早期の業務再開を果たすことができた」と説明。「復旧は事前対策に比例する。悲観的に準備し、楽観的に活動する。これが大事」と説いた。
山村氏は、2016年の熊本地震や2018年の大阪北部地震で発生した、オフィス内でのサーバーラック転倒や民家の家具転倒の事例を挙げ、形式的な対策にとどまっていたと分析。「人間というのは都合の悪い情報は無視して、自分に都合よく考えることが多い。そうすると、形式的な対策しかできない」と正常性バイアスの弊害を指摘した。
また、1995年の阪神淡路大震災で震度6強の揺れを記録したコンビニ店内の映像を上映し、初期微動の段階で退避行動を取れない状態が「正常性バイアスからくる“凍り付き症候群”」であると説明。緊急時に退避行動をとるために、普段から「緊急地震速報や小さな地震の揺れを感じたら、訓練と思ってただちに安全な場所に退避すること」を提案した。
最後に山村氏は、阪神大震災の際、神戸で略奪・窃盗や暴動が起こらなかったことの要因として、スーパーやコンビニが被災後も必死で店を開け続けていたことを挙げ、企業に求められる事業継続責任の重要性を指摘。「自分たちの企業が事業を継続することによって、その地域の安寧、秩序を保てることもあると思う。その意味からも、自分たちの組織を安全にすること、そして防災危機管理体制を高めること。それは企業としての使命であり、同時に責任でもある」と強調した。
二番目のプログラムでは、「災害・セキュリティ対策」についてのパネルディスカッションが行われ、昭電の村井和男氏(地震対策システム部部長)、鈴木淳一氏(雷対策システム部副部長)、花井聡氏(金融営業部課長代理兼技術ソリューション推進室)が登壇。自然災害・人災を含めてリスクが多発化するなか、複合的な防災体制における管理・監視のあり方、スマート保安・監視のあるべき姿を議論した。
昭電の村井和男氏は、年初の能登半島地震でみられた木造家屋の倒壊や、幹線道路の寸断による通行止めで救済支援の車両等が現場に辿り着けない状態を振り返った上で、同地震を機に行われた企業調査で、企業が改めて大切と考える防災対策として「飲料水、非常食などの備蓄」がトップとなったことを紹介。また、過去に起きた地震でも、大規模な地震では断水期間が1〜3カ月ほど続いたことを報告した。
こうした被災の対策として、村井氏は昭電の「大気水生成装置」を紹介。結露発生の原理によって空気から飲料水を作るもので、一般家庭用製品の性能としては1日約12リットル、1時間で500ミリリットルの生成が可能であり、水道管と直結することで浄水器としての日用使いや、水が不足する場合には外部水を濾過して飲料水に使えるという特徴も説明。企業の防災対策や避難所での利用としては、1日150リットルが製水できる業務用製品が有効であると提案した。
そのほか、村井氏は、生活用水の確保に有効な製品として、貯水池、プールなど、さまざまな水を濾過して生活用水として使用できる「アクティサプライフィルタ」を紹介した。
昭電の鈴木淳一氏は、最近の電子機器が高密度化、省電力化され、雷のような過電圧や静電気に非常に弱くなっている一方で、落雷の回数がここ数年で非常に増えており、雷被害が拡大しつつあると指摘。落雷の増加の原因について「一説によると平均気温の上昇が原因」とした上で、「米国の科学誌『サイエンス』によると、気温が1度上がると、落雷が約12%増加する」、「地球温暖化による気温上昇は落雷リスクの上昇にもつながる」と紹介した。
こうした背景を踏まえて鈴木氏は、BCP対策の一環としてセキュリティ面で非常に重要視される監視カメラについて、雷被害を受けやすいものであることを改めて指摘。落雷対策として一般的に知られる避雷針では、監視カメラに進入する誘導雷やアースからの雷などへの対策が講じられないことから、昭電では「SPD(サージプロテクティブディバイス)」を提案。「カメラへの接続ケーブルの入り口、POEハブのLANケーブルの入り口、電源ケーブルの入り口につけることで、雷の電流をSPDによってバイパスできる」と説明した。
昭電の花井聡氏は、太陽光発電所のケーブル盗難が近年増加している要因として、銅価格の高騰をあげた。さらに、窃盗グループによる盗難が高度化し、防犯システムの突破ノウハウがかなり蓄積されている中で、「従来は大規模施設が狙われたが、窃盗を企てる側からすると、今後は中規模以下でも十分利益が出る。今まで被害のなかったサイトも、今後、防犯対策を再点検していただく必要がある」との考えを示した。
花井氏は、企業が講じ得るケーブル盗難対策として、フェンス、監視カメラ、警報装置の果たす役割や課題を解説。「防犯設備というのは、何か一つがあれば完璧ということはない。弱点を補う形で複合化して対策することが重要」と述べ、複合化の狙いとして、窃盗を企てる者に「 “諦めよう”とどれだけ思わせるか」と説明した。
具体的な対策として、フェンスに取り付けて乗り越えや穴開けの瞬間を捉える侵入感知センサー「トラップ式フェンスセンサー」と、ケーブルの盗難(切断)が発生した瞬間を捉えて、警備システムや警報装置に連携し、窃盗グループに対する威嚇や駆けつけを行うケーブル盗難検知システム「Kebin-Loop(ケビンループ)」を紹介。これらを複合化させることで、確実な警報装置の稼働や警備システムとの連携が可能になると説明した。
三番目のプログラムでは、「監視・管理」についてのトークセッションが行われ、昭電の八木祥人氏(執行役員情報機器システム部長(兼技術ソリューション推進室長))とジェネテック・ジャパンの室川豪氏(カントリーマネージャー)が登壇。フィジカル・セキュリティ対策をテーマに、複合的な防災・防犯体制、スマートな監視・保安体制を築くためのソリューションを解説した。
八木氏は、監視・管理運用の効率化、省力化、省人化が求められる中で、ジェネティックのビデオ監視システム「Security Center(セキュリティセンター)」の提供が徐々に増えてきていることを紹介。同システムは、さまざまなメーカー・機種の監視カメラを統合してモニタリングできるほか、入退管理システムや、入退管理に紐づく生体認証システム、侵入検知センサー、鍵管理システムなど、多数のシステム連携が可能であり、統合的なプラットフォームとして導入する事例が増えているという。
八木氏は、同システムについて「BCPという切り口でもいろんな使い方ができる」とし、震災、落雷、洪水、冠水、浸水といった自然災害を事前に検知して予防するシステムや、盗難、不正侵入、交通災害といった人的災害の予防ソリューションとしての活用を提案。さらに、“イベント・トゥ・アクション”の仕組みを活用し、発災から復旧までを自動化するような使い方もできると語った。
最近の事例として、「セキュリティセンター」を船舶の乗船者管理システムとして活用したケースを取り上げ、災害時の避難所運用の効率化ソリューションとして活用できることを紹介した。
ジェネテック・ジャパンの室川豪氏は、「セキュリティセンター」の機能面の特徴や具体的な活用事例を解説。同システムが「ビデオ監視」、「入退館」、「ナンバープレート認識」を軸とする一方で、「ビデオ監視や、入退館システムとしてだけで成り立っているというよりは、さまざまなものと連携していく」というイメージを強調した。SNSなどのウェブページや地震情報、渋滞情報、天気予報などの外部情報を組み合わせることができ、こうした機能を活用し、大学キャンパスや空港ターミナル、データセンターなど、自由なかたちで画面を構成できると述べた。
「一般的に個別システムで導入されることの多い入退管理の仕組みと監視カメラが一つのシステムとして統合され、スリム化されている」ことに加え、顧客の求めに応えて、複雑な映像解析システムなどとの連携が可能なことも「セキュリティセンター」の強みとして挙げた。BCP対策としては、「セキュリティセンター」を各店舗が管理し、本社等で連携・統合しておくことで、事象が発生した場合には本社が通知を受けて管理できる仕組みを紹介。世界では米国のスターバックスがこの仕組みを導入していることを報告した。